本記事では、入れ歯の金額を左右するさまざまな要素を歯科医師が徹底解説します。失った歯の本数や場所、天然歯の状態から使用する材料、さらには保険適用の有無に至るまで、入れ歯治療の相場に影響を与える要因を詳しく見ていきます。
さらに、入れ歯の維持装置による金額の違いや、入れ歯治療の流れとその費用の詳細までカバーしています。完全ガイドというだけあって文章量が多いですが、ぜひ最後までご覧ください。
入れ歯の金額を決める要素
入れ歯を必要とする人々にとって、どのくらいの費用がかかるのかは非常に気になるところです。このガイドでは、入れ歯の金額に影響を与えるさまざまな要素について詳しく解説します。
失った歯の本数(欠損歯数)
入れ歯の金額に大きく影響を与える要素のひとつは、失った歯の本数です。単純に欠損が多いほど、使用する材料や手間が増えるため、費用も高くなります。
例えば、1本だけの部分入れ歯と14本分の総入れ歯とでは製作過程や手間が異なり、金額も大きく異なります。
失った歯の場所(欠損歯の分布)
歯の欠損がどの部分にあるかも金額に影響を与えます。
入れ歯治療では「片側性(へんそくせい)」と「両側性(りょうそくせい)」という考え方があります。入れ歯の設計が右と左とにまたがる場合は両側性、右または左に限局する場合は片側性と言います。

左右の歯を失った場合には両側性の入れ歯を作る必要がありますし、どこか一本の歯を失った場合には片側性の入れ歯になることがほとんどです。
両側性の入れ歯は片側性の入れ歯に比べて、設計が複雑になるため、費用が高額になることが多いです。
天然歯の状態
部分入れ歯の製作において、周囲の天然歯(鉤歯)の状態は非常に重要です。
鉤歯が健康であれば、すぐに入れ歯を作り始めることができ、金額もそれほどかからないことが多いです。しかし、残っている天然歯に問題がある場合、鉤歯の治療が必要となり、その分の金額が上乗せされる可能性があります。
使用する金属の種類
入れ歯の支台装置や義歯床に使用する金属の種類が金額に影響を与えます。

一般的にはコバルトクロム合金が使用されることが多いですが、患者さんの希望や状態に応じて異なる金属が使用されます。

保険治療の部分入れ歯では、コバルトクロム合金や金銀パラジウム合金が使用されます。
使用する義歯床の種類
入れ歯の基盤部分にあたる義歯床の素材も金額に影響を与える点の一つです。
義歯床の素材にはアクリル樹脂(レジン)や金属、シリコンなど多くの選択肢があり、それぞれ価格や特性が異なります。
レジンは比較的安価で、保険治療でも一般的に使用されるのに対して、金属床は自費治療で使用されます。シリコン製の義歯床は、痛みが出やすい入れ歯などで使用されることがあります。
使用する人工歯の種類
人工歯の素材選びも、入れ歯の金額に大きく関与します。人工歯の種類は以下の3タイプです。
- レジン歯(プラスチック)
- 硬質レジン歯(プラスチック+セラミック)
- 陶歯(セラミック)
レジン歯は安価ですが、耐久性や審美性においてはやや劣ります。ほかの人工歯と比べて柔らかいという特徴があるため、入れ歯の調整は容易です。
硬質レジン歯はプラスチックにセラミックの粒子を加えた人工歯です。耐久性と調整のしやすさを両立させています。
陶歯は100%セラミックでできている人工歯です。審美的で変形が少ない特徴がありますが、外れやすいというデメリットがあります。
人工歯は患者さんの要望や歯科医師の決定によって決まります。
維持装置の違い
維持装置とは、入れ歯を外れなくするための装置です。
部分入れ歯ではクラスプという維持装置が主流です。クラスプにもメタルクラスプとノンメタルクラスプがあるため、どちらを選択するかによって、費用は大きくことなります。メタルクラスプとノンメタルクラスプの違いは、下記の記事で解説しています。

天然歯を維持装置とする場合や、インプラントを維持装置とする場合があります。天然歯を維持装置とする場合も、磁性アタッチメントを付与するケース、コーヌス冠を装着するケースなどがあります。
保険治療の部分入れ歯では天然歯にクラスプを引っかけ、入れ歯を維持することがほとんどです。
メーカーの違い
入れ歯によっては、特定のメーカーが商標登録しているものがあります。
代表的なものには、Ivoclar Vivadent 株式会社のBPSデンチャー、株式会社バイテック・グローバル・ジャパンのコンフォート義歯があります。
メーカーが指定した材料や治療手順を踏むことで、BPSデンチャーやコンフォート義歯が作製されます。
これらの入れ歯には、独立した価格が設定されていることがあります
保険適用の有無
入れ歯治療における金額に最も大きく影響を与える要因が保険の適用の有無です。
保険適用の場合、金額は大幅に抑えられることが多く、経済的負担を軽減できます。しかし、保険が適用される範囲や条件は限られており、使用する素材や治療ステップに限界があります。
自費治療にも保険治療にもメリットとデメリットがありますので、必要に応じて選択するようにしましょう。
入れ歯の相場
失った歯の本数とその分布によって、入れ歯の種類や構造が変わり、その結果金額にも変動が生じます。例えば、同じ本数の歯を失っていても、それが連続しているのか、離れているのかによって入れ歯の設計は大きく異なります。
本項では、部分入れ歯と総入れ歯の具体的な相場を解説。保険治療の場合は窓口負担が3割の患者さんを想定しています。使用する金属はコバルトクロム合金を想定し、相場をまとめました。
1歯分の入れ歯の金額については、下記の記事で詳しく解説しています。

片側性部分入れ歯の相場
ここでは「片側の2歯を失った場合」の治療費の相場をまとめました。自費治療の入れ歯の治療費は、歯科医院によっては大きく異なる場合があります。

- 保険治療の部分入れ歯
-
約5,000円
- 金属床義歯(メタルクラスプ/ノンメタルクラスプ)
-
200,000〜400,000円
- コンフォート義歯
-
150,000〜350,000円
- 金属を使用しないノンメタルクラスプデンチャー
-
150,000〜200,000円
両側性部分入れ歯の相場
次に「両側の2歯を失った場合」の治療費の相場を見てみましょう。自費治療の入れ歯の治療費は、歯科医院によっては大きく異なる場合があります。

両側性2歯欠損の場合、金属を使用しないケースは少ないため、「金属を使用しないノンメタルクラスプデンチャー」の相場はわかりません。
- 保険治療の部分入れ歯
-
約7,000円
- 金属床義歯(メタルクラスプ/ノンメタルクラスプ)
-
300,000〜500,000円
- コンフォート義歯
-
200,000〜350,000円
- 金属を使用しないノンメタルクラスプデンチャー
-
不明
総入れ歯の相場
最後に総入れ歯(片顎14歯欠損)の相場をまとめます。片顎(へんがく)というのは、上下のどちらかという意味です。
- 保険治療の総入れ歯
-
約12,000円
- 金属床義歯
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500,000〜600,000円
- コンフォート義歯
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500,000〜600,000円
前述した2歯欠損の場合と比べると、総入れ歯では7倍の歯数を補う必要があります。しかし、金額は7倍にはならないという特長があります。
入れ歯の維持装置による金額の違い
維持装置とは入れ歯が外れないようにするためのパーツです。部分入れ歯では、天然歯を支えとして用いるクラスプが多用されます。
維持装置をつける天然歯が少ない場合や、不安定な入れ歯では、クラスプ以外の維持装置が用いられることがあります。治療費の相場にも影響する項目です。
インプラントオーバーデンチャー
インプラントオーバーデンチャーでは、入れ歯とインプラントにアタッチメントという維持装置を取り付け、入れ歯を外れにくくします。

入れ歯そのものの治療費のほかに、インプラント治療に関連する治療費が加算されます。目安としてはインプラント1本あたり約300,000円です。
通常のインプラント治療とは異なり、患者さん自身で入れ歯の着脱が可能です。
マグネットデンチャー(磁性アタッチメント義歯)
マグネットデンチャーは、入れ歯を磁石で固定する方法です。磁石を入れ歯に取り込み、磁石に吸着する金属を天然歯に装着します。天然歯に装着される金属は、一般的に根面板(こんめんばん)と呼ばれます。

マグネットデンチャーを作るにあたって、磁性アタッチメントというパーツ代や、天然歯に装着する根面板代が加算されます。保険治療でも磁性アタッチメントは利用でき、通常の入れ歯治療費に加えて約8,000円が必要です。自費治療では30,000〜80,000円が相場です。
コーヌスクローネ義歯
コーヌスクローネ義歯は、歯の上に入れ歯をかぶせるようにして入れ歯を固定します。入れ歯には外冠(がいかん)というパーツを取り込み、歯には内冠(ないかん)というパーツを装着します。土台となる歯1本につき、100,000〜150,000円が加算されます。

入れ歯治療の流れと費用の詳細
入れ歯治療では、入れ歯そのものの金額に加え、治療ステップごとの処置でも費用が発生することがあります。本項では、入れ歯そのものの金額以外に生じる可能性がある項目をまとめました。
入れ歯治療の流れ
入れ歯治療の大きな流れは以下の通り。保険治療ではそれぞれのステップで料金が発生し、入れ歯そのものにも費用がかかります。自費治療では、歯科医院の料金設定によって異なります。
入れ歯を作る前に検査をします。
口腔の型を取ります。
かみ合わせの型を取ります。
入れ歯を試し入れします。
完成した入れ歯を装着します。
入れ歯を調整します。
印象採得の金額
型取りにかかる金額は、保険治療では約1,000円です。自費治療の場合には、入れ歯の費用に含まれていることが多いです。
咬合採得の金額
咬合採得の金額は、保険治療では400〜1,000円です。自費治療の場合には、入れ歯の費用に含まれていることが多いです。
試適の金額
試適にかかる金額は、保険治療では300〜800円です。自費治療の場合には、入れ歯の費用に含まれていることが多いです。
調整と修理の費用
入れ歯の調整費用は、保険治療で約400円、自費治療では1,000〜5,000円です。修理費用は、保険治療で1,000〜3,000円、自費治療で10,000〜50,000円です。
価格に影響を与える要因とは
医師の経験と技術
歯科医師の経験と技術は、入れ歯の金額に直接影響を与えます。高い技術と豊富な経験を持つ医師は、患者にとってより快適で耐久性の高い入れ歯を提供することができますが、費用も上昇する傾向があります。
入れ歯の質やその後のアフターケアを考慮に入れると、予算を十分に確保して経験豊富な医師に依頼することが、長期的に見てコストパフォーマンスに優れる選択となります。
歯科医院の地域性
歯科医院が所在する地域の経済的特性は入れ歯の価格に反映されます。都市部では賃料などのコストが影響し、治療費用は高くなることが多いです。一方、地方のクリニックでは都市部と比べて、低価格で治療を受けられることもあります。
歯科医院の設備
歯科医院の設備や器材も、入れ歯の価格を左右します。入れ歯治療に専門的な知識を有する歯科医院では、入れ歯専用の器材が数多く用意されています。入れ歯専用の設備や器材を用意するコストが、入れ歯の価格に転嫁される場合があります。
追加治療の必要性
入れ歯を作成する前には、口腔内の状態を整えるために追加の治療が必要になる場合があります。例えば、残った歯の矯正や虫歯治療、抜歯などが求められるケースがあります。これらの追加治療は、入れ歯自体の金額に加えて費用がかかるため、口腔内に抱えている問題が多いほど高額になるでしょう。
まとめ
入れ歯の金額は、さまざまな要因によって大きく左右されます。失った歯の本数、場所、使用する素材、維持装置の選択、さらに保険適用の有無など、考慮すべき点は多岐にわたります。長期的に見て満足できる入れ歯を手に入れるためには、自分に最も合った治療プランと入れ歯治療に専門性を持った歯科医師を見つけることが非常に重要です。