部分入れ歯は、いくつかのパーツから構成されています。その中でも、「クラスプ」と呼ばれる部分は、入れ歯の安定性や機能性において欠かせない存在です。
本記事では、クラスプの基本的な定義やその重要性を解説し、さらにその構造や仕組み、素材による違いなどを詳しく紐解いていきます。
また、クラスプを選ぶ際のポイントや、クラスプを使用しないためにはどうしたらいいかも解説しています。
入れ歯のクラスプとは?
クラスプは患者さんの噛み心地を向上させ、入れ歯が外れるのを防ぐ役割を果たします。
クラスプの基本的な定義
クラスプは部分入れ歯の支台装置の一つです。入れ歯を装着した際に、天然歯に部分入れ歯を固定するための装置であり、「鉤(こう)」とも呼ばれることがあります。また、クラスプが装着される歯のことを鉤歯(こうし)と呼びます。
部分入れ歯の構造を詳しく知りたい方は、下記の記事をご覧ください。

クラスプが果たす役割とは
クラスプの主な役割は、部分入れ歯が口腔内で安定するようにサポートすることです。咀嚼中や会話時など、口を動かすたびに入れ歯が外れてしまうと不便さを感じますが、クラスプは入れ歯の脱離を防ぎます。また、入れ歯にかかる噛む力を、鉤歯に効率的に伝える役割も果たし、鉤歯による強固な支持を確立します。
クラスプの一般的な材料
クラスプの材料には、主に金属が使われます。使用される金属は、コバルトクロム合金や金合金、チタンなどが代表的です。保険治療では、コバルトクロム合金が使用されることが多いです。
自費治療の一部では、審美性を重視した樹脂性のクラスプも使用されることがあります。

コバルトクロム合金には軽くて丈夫という特徴があります。
クラスプの役割を詳しく理解しよう
このセクションではクラスプの役割をより詳しく見ていきましょう。
クラスプの構成要素
クラスプは主に「鉤腕」「鉤体」「鉤脚」「レスト」により構成されています。
- 鉤腕(こうわん)
-
天然歯を部分的に抱え込む形状をしており、いわゆる「バネ」の部分
- 鉤体(こうたい)
-
鉤腕と鉤脚の接続部
- 鉤脚(こうきゃく)
-
義歯床部と鉤体をつなぐ部分
- レスト
-
歯の上(咬合面)に乗る部分


クラスプが入れ歯を外れにくくする仕組み
クラスプは鉤腕の先端部分(鉤尖)を鉤歯のアンダーカットに挿入することで、バネの力で歯を挟み、入れ歯を固定します。この入れ歯を外れにくくする力が維持力です。厳密には維持力以外の作用(把持)によっても入れ歯は固定されていますが、難しい内容ですので割愛します。
クラスプによる咬合力の伝達
クラスプにはレストという構造があります。入れ歯にかかった咬合力は、鉤脚部と鉤体部を介してレストに伝わり、最終的には歯に伝達されます。
部分入れ歯では歯と歯ぐきの両方で咬合力を負担します。レストがあることにより、天然歯にたくさんの咬合力を支えてもらうことができます。レストがうまく機能しなければ、入れ歯の咬合力が歯ぐきに過度に伝わり、歯ぐきが痛くなってしまいます。



「レストがない入れ歯は、入れ歯ではない」といわれるほど重要なパーツです。
クラスプの種類を知る
部分入れ歯で使用されるクラスプについて知ることは、機能性や審美性を追求するうえで非常に重要です。クラスプにはさまざまな種類があり、それぞれに独自の特徴があります。それらを理解し、自分の用途やニーズに合ったものを選ぶことが、快適な使用感や長期的な満足感を得る鍵となります。
メタルクラスプ
メタルクラスプは、金属を素材として作られているクラスプです。保険治療の入れ歯ではメタルクラスプしか使用することができません。入れ歯の「バネ」といえば、メタルクラスプを指すことが多いでしょう。


ノンメタルクラスプ
ノンメタルクラスプは、金属を含まない樹脂で作られているクラスプです。レジンクラスプとも呼ばれます。審美性が優れていることから、自費治療の部分入れ歯で用いられる機会が増えてきています。また金属アレルギーをお持ちの方にも使用が可能です。


クラスプ選びにおけるポイント
クラスプを選ぶ際には、何を最優先するかがポイントとなります。価格、審美性、衛生面、そしてメインテナンス性など、それぞれが重要な要素です。また、クラスプを使用しない選択肢も存在するため、自分に最適な方法を見極めることが必要です。以下では、それぞれのポイントについて具体的に説明していきます。
メタルクラスプ | ノンメタルクラスプ | |
---|---|---|
価格 | 安〜高い | 高い |
審美性 | 悪い | 良い |
衛生面 | 普通 | 悪い |
メインテナンス性 | 良い | 悪い |
価格
保険治療の部分入れ歯ではメタルクラスプが使用されます。クラスプにコバルトクロム合金を使用した場合、5,000円〜10,000円程度が部分入れ歯の総治療費となります。
自費治療の場合では、メタルクラスプとノンメタルクラスプを選択することが可能です。失った歯の数や使用する材料により価格には大きな幅があり、100,000円〜500,000円程度が総治療費となるでしょう。
審美性
審美性を重視する場合、ノンメタルクラスプが優れています。金属が露出しないため、特に前歯付近での使用に適しています。奥歯などの見えにくい部分では、メタルクラスプを使用しても審美的な問題を引き起こさないこともあります。



審美性では圧倒的にノンメタルクラスプが優れています。
衛生面
ノンメタルクラスプは、鉤歯周囲の歯ぐきを覆うような形態になることから、鉤歯が不衛生になりやすいでしょう。メタルクラスプは歯ぐきを広くは覆いませんので、ノンメタルクラスプと比べると衛生的です。
メインテナンス性
メタルクラスプのメリットとして、クラスプの調整や修理が容易な点が挙げられます。入れ歯が完成した後でも、さまざまな修正ができますのでメインテナンス性は優れています。
一方でノンメタルクラスプは、入れ歯が完成した後の修正は困難なことが多いです。壊れた際の修理にもさまざまな制限があり、メインテナンス性はやや劣るでしょう。



修理がしにくい点が、ノンメタルクラスプ最大のデメリットだと思います。
クラスプを使用しないという選択肢
アタッチメントという装置を使用することで、クラスプを使用しなくて良い場合があります。この方法は、見た目の美しさや快適性に優れており、従来のクラスプに抵抗がある患者さんにとって有効な選択肢です。ただし、高額な費用や適応症例の制限があるため、メリットとデメリットを十分に検討する必要があります。