差し歯や仮歯がとれた時の応急処置として、ポリグリップの使用を思い浮かべるかもしません。
ここでは、差し歯や仮歯について基礎知識を学びながら、ポリグリップを利用した応急処置について説明していきます。
- 差し歯と仮歯の基礎知識
- 差し歯と仮歯が取れたときの応急処置
差し歯や仮歯が外れたときの基礎知識
本項では、差し歯や仮歯、ポリグリップの基礎知識を解説します。
差し歯とは?
差し歯とは、虫歯や外傷によって歯が大きく損傷した際に、歯の根っこ(歯根)を残しつつ、歯根に土台(コア)を立て、かぶせ物(クラウン)を装着する治療法です。歯根にコアを差し込むことから、差し歯と呼ばれるようになったと考えられます。
差し歯は、歯科治療として古くから用いられている方法で、現在も行われている治療法です。通常ではすぐに外れることはありませんが、長期間の使用により接着剤が劣化したり、クラウンと歯根の境目から虫歯になったりして、外れてしまうことがあります。
仮歯とは?
仮歯は、最終的なクラウンなどができるまでの間、歯の機能や見た目を一時的に補うために装着する人工の歯です。主にレジンと呼ばれるプラスチックで作製されます。
仮歯はあくまで一時的なものであるため、必要に応じて歯科医師が着脱できなければいけません。そのため、最終的なクラウンを装着する際とは異なり、仮付け用の接着力の弱い接着剤(仮着材:かちゃくざい)が用いられます。仮歯の適合精度も最終的なクラウンと比べて低いことが一般的です。
仮着材の接着力の弱さや、仮歯の適合精度などの影響により、パンやガムなどのかむことで粘性を生じる食品を摂取する際に、仮歯が外れてしまうことがあります。それ以外では、デンタルフロスを使用した際に、フロスに引っかかって外れてしまうこともあります。

持ち手がついていないタイプのデンタルフロスを使用し、歯間部をこすった後に横からフロスを引き抜くように使用すると、仮歯が外れにくいです。
ポリグリップの基本情報
ポリグリップは、入れ歯安定剤として広く利用されている製品です。多くのラインナップを有し、ドラッグストアでも手軽に入手できるという特徴があります。
ポリグリップは口腔内の水分を吸うことで、徐々に粘性を生じ、入れ歯と歯ぐきを粘着させる働きをします。接着剤とは異なり、入れ歯を完全に歯ぐきに固定するわけではありません。入れ歯を清掃する際に洗い流すことが可能です。
ポリグリップのについてもっと知りたい方は下記の記事をご覧ください。


差し歯と仮歯の応急処置方法
急に差し歯や仮歯が外れたときはどうすればよいのでしょうか。本項では歯科医師が考える応急処置について解説します。
応急処置におけるポリグリップの使用
結論から言うと、差し歯や仮歯が外れた際の応急処置として、ポリグリップを使用することは禁止されています。ポリグリップの添付文書には、「本品はブリッジ、さし歯、一部の部分入れ歯には使用できません。」と記載されています。仮歯の記載はありませんが、差し歯と同様の構造であることから、仮歯への使用も禁止であると解釈できるでしょう。
仮ににポリグリップを使用したとしても、外れた差し歯や仮歯をくっつけることはできないと感じます。ポリグリップの性能を発揮するには水分と時間が必要です。差し歯や仮歯の内面にポリグリップを塗ってから歯に戻すと、ポリグリップが唾液などの水分と触れにくくなってしまいます。また、ポリグリップが十分な粘着力を発揮するまで30〜60分ほどかかりますので、瞬間接着剤のような作用は期待できません。
公式に禁止されていることはもちろんですが、歯科医師として経験からも、ポリグリップで外れた差し歯や仮歯をくっつけることは困難だと思われます。
市販の瞬間接着剤を使用して、ご自身で外れた差し歯を固定して来院される患者さんが数年に一度はいますが、絶対にやめましょう。



市販の瞬間接着剤を使用して、きれいに差し歯が戻っていたことありません。治療にも悪影響をおよぼす可能性がありますので、やめたほうがよいでしょう。
歯科医院を受診する
外れた差し歯や仮歯を着ける場合には、歯科医院を受診することがベストです。土日祝日でも、自治体の歯科医師会の当番医が診療をしていることが多いですし、大都市では夜間診療を行っている歯科医院も存在します。
歯科医院を受診する際の注意点としては、外れた差し歯や仮歯をすぐに戻せる保証はないということです。差し歯を固定する歯根がボロボロになってしまっている場合や、仮歯が粉々になっている場合には短時間での治療は困難です。
事前に外れたものを戻せるか電話で確認したとしても、「現状を確認しなければわからない」と答えられてしまうことでしょう。まずはできる限り早い段階で、歯科医師の診察を受けることが賢明です。
マスクを着用する
どうしてもすぐに歯科医院を受診できない場合にはマスクを着用し、口元を隠すことが現実的な応急処置ではないでしょうか。近年ではCOVID-19やインフルエンザの流行もあり、マスクを着用していても以前のような違和感はありません。
マスクを着用できないようなシーンでは、どうにかして歯科医院を受診できないか考えましょう。



結局、歯科医院を受診するしかありません・・・
まとめ
差し歯や仮歯が外れた際の応急処置について説明しましたが、最終的には歯科医院での診療が不可欠です。ポリグリップを用いた仮固定はできないと考えられますし、公式に禁止されています。早急に歯科医院を受診し、それができない場合にはマスクを着用するなどして、口元を隠すのも選択肢かもしれません。
Q&A
「差し歯や仮歯がとれたときの応急処置」に関連する質問を集めました。
- 差し歯が取れてから何日以内につけ直さないといけないですか?
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できる限り早く付け直したほうがよいでしょう。差し歯が装着されていないということは、歯の内部の組織が口腔何に露出していることを意味します。唾液中の細菌が歯の内部の深くまで再感染してしまうと、根管治療からやり直さなければいけません。不要な治療を増やさないためにも迅速に歯科医院を受診しましょう。
- 前歯の差し歯が取れた時の応急処置は?
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考えられる応急処置は歯科医院の受診とマスクの着用です。ポリグリップを使用しても差し歯をくっつけることはできません。
- 差し歯をアロンアルファでくっつけるとどうなる?
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しっかりと接着することはないでしょう。歯科医師が差し歯を装着する際には、接着面の汚れを全て除去し、適切な接着剤を、適切な量使用し、接着面を乾燥させます。これらの手技がご自宅かつご自身で行えるとは思えません。再治療を難しくすることにもつながりますので、アロンアルファなどの接着剤は使用してはいけません。
- 仮歯が取れてしまった場合どうすればいいですか?
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まずは歯科医院に連絡しましょう。急患として受け入れが難しい場合もありますので、その際は受け入れてくれる歯科医院を探すのも手です。他院を受診してからかかりつけ歯科を受診する場合は、他院で仮歯を付け直した旨を伝えるとスムーズです。
- 仮歯は何年くらい持ちますか?
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仮歯の生存率は不明です。仮歯はあくまでも仮歯ですので、歯科医師の判断の下、使用期間を決定します。少ない本数の場合は1か月程度の使用期間となることがありますし、複数本におよぶ全顎的な治療を行う場合には年単位で仮歯を使用する場合もあります。